2012年5月12日土曜日

食物アレルギーの悩みを解決する専門家のお話|ベビータウン


お話を伺ったのはこの方!

独立行政法人国立病院機構 相模原病院
小児科 医学博士

今井孝成先生

東京都こどもの食物アレルギー検討部会委員、厚生労科学研究 食物アレルギー診療の手引き2005・2008作成委員を務めるなど、食物アレルギーの研究・治療の第一線で活躍中。

 

食物アレルギーは予防できるもの?

Q 食物アレルギーにならないように予防することはできるのでしょうか?

残念ながら、これをすれば絶対に予防できるというものはありません。ただし、ダニなどのハウスダストを減らす、両親が喫煙しないといった環境を整備することで、アレルギーになるリスクを下げることはできますよ。
喫煙は、子どもの前で吸わなければ大丈夫だと思っている方も多いかもしれません。しかし吸い終わった後でも服などにタバコの成分がついてしまい、それを子どもが吸い込んでしまうので、喫煙自体をやめたほうがいいですね。
さらにまだ研究段階ではあるのですが、スキンケアをきちんと行うことが食物アレルギーの予防になる可能性もあると考えられています。

Q どうしてスキンケアが食物アレルギーの予防になりそうなのですか?

口から食べたときは胃など消化器官で食べ物の成分が分解されて、腸管から吸収されるときには体にいれるべきものと入れないほうが良いものを分けています。しかし、湿疹やアトピー性皮膚炎で肌があれていると、空気中にただよっている食物の成分が皮膚から、体に入って欲しくない成分まで直接入ってきてしまうのです。そのため体質によってはその食べ物に感作(※注)され、アレルギー反応が出やすい状態になってしまうこともあるのです。
スキンケアすることで皮膚を健康な状態にしていくことで感作の予防になることはまだ結論は出ていないので断言はできませんが、可能性は大いにあると思います。たとえ予防にならなかったとしても、スキンケアをきちんとして肌荒れを減らすことはお子さんにとって良いことで� ��。ぜひ実践してみてはいかがでしょうか。

※感作(かんさ)・・・アレルギー反応を起こす原因物質に対して抗体がつくられ、それが記憶されている状態。感作された後にもう1度原因物質にさらされるとアレルギー反応が起こりえます。


胸部圧迫感と痛み妊娠中

Q 妊娠中や授乳中のママの食生活によって、子どもが食物アレルギーになることはあるのですか?

基本的に関係ないとされています。毎日牛乳を3リットル飲むとか、毎食きなこをどんぶり一杯食べるといった、摂りすぎは影響する可能性もありますが、常識的な量であれば影響しません。アレルギーを起こしやすい食材を自己判断で除去することはやめてくださいね。無駄なことをしてストレスをためるより、バランスのとれた食事を心がけたほうが良いでしょう。

Q 離乳食を開始する時期を遅くしたほうが食物アレルギーの予防になりますか?

これまではアレルギーになりそうな子は離乳食を遅らせたほうがいいと一般的に考えられていました。しかし元々何か根拠があったわけではなく、むしろ近年の研究ではどうやら必ずしも遅らせた方が良いわけでもないことがわかってきました。親が重症なアトピーがある、兄弟にも強いアレルギーがある場合など、アレルギーになるリスクが高くて心配な場合も自己判断で遅らせるのではなく、病院で主治医の判断をあおいでください。そうした心配のないお子さんは、厚生労働省が発表している「授乳・離乳の支援ガイド」を参考に離乳食を進めていくと良いでしょう。親の判断で離乳食の開始時期を遅らせるのはやめましょう。

Q 食べ過ぎが原因で食物アレルギーになることはありますか?

食物アレルギーは、食べ過ぎで発症するものではありません。「私が食べさせすぎたから子どもがアレルギーになってしまった」と気に病むお母さんもいらっしゃいますが、そのようなことはありませんよ。また、食物アレルギーを予防するために回転食(※注)にしたほうが良いと思っている方もいるのですが、必ずしも効果的ではありません。

※回転食(かいてんしょく)・・・同一の食物を一定の間隔をおいて与える方法。

食物アレルギーの症状について知りたい

Q 食物アレルギーはどのような症状がでるのですか?

あらゆる症状がでますが、でやすさには差があります。原因食物を食べた後通常2時間以内に症状がでる即時型の場合、1番多いのがじんましんなどの皮膚症状で70〜90%。次がまぶたや唇がはれるなどの粘膜症状で40〜50%。咳、呼吸困難などの呼吸器症状が20〜30%。腹痛、嘔吐、下痢などの消化器症状が10%。アナフィラキシー(※注)ショック症状が7%と言われています。

※アナフィラキシー…・食物、薬物などが原因で、皮膚症状、消化器症状、呼吸器症状が、急激にかつ複数同時にあらわれる状態のこと。その中でも、血圧、心機能の低下などをおこし、生命をおびやかすような危険な状態に陥ってしまうものを「アナフィラキシーショック」と呼びます。


右肋骨の妊娠の痛み

Q どのような症状が出た時に特に気をつけたほうがいいですか?

やはりアナフィラキシーショック症状が出た時が最も怖いですね。すぐに救急車を呼んでください。血圧、心機能が低下して意識を失い呼吸停止、最悪は死亡にいたるケースもあります。発生する確率は7%と他の症状に比べると低いですが、これほど深刻な症状が7%も出るというのは非常に高い確率といえます。現在は、医療機関を受診する前にショック症状の救急処置をするため、アドレナリン自己注射薬を処方してもらえるようになりました。ショック症状を起こしたことのある方は、万が一の備えについてかかりつけ医とよく相談しておいてください。
また、呼吸器症状が出たときも注意が必要です。軽そうに見えても病院へ行ったほうがよいでしょう。

Q アナフィラキシーショックを起こしやすい食べ物はありますか?

確率で言うと、そば、ピーナッツ、木の実はショックを起こしやすい食べ物といえます。しかし、鶏卵や牛乳、小麦などでも起こす可能性は十分にあります。アナフィラキシーショックを起こした原因で1番多かったものは、鶏卵なんですよ。これは、鶏卵アレルギーの人が1番多いからですね。

Q 食物アレルギーなのかどうか、どうやって調べるのですか?

基本的には、その食物を食べて症状がでるかどうかでみるしかありません。血液検査でアレルギー反応のでやすさは調べることができますが、"血液検査で陽性"="食物アレルギー"ではないので誤解しないでくださいね。
血液検査の結果は数値によって7つのクラスに分かれていて、クラス2以上を陽性とし、クラスがあがるほどアレルギー症状が出やすいと考えられます。しかし、血液検査で陽性でも実際に食べても何の症状もでないこともあります。

Q 乳児湿疹なのか、食物アレルギーなのか見分ける方法はありますか?

それを見分けるのは医師の仕事です。自己判断せず、病院へいらしてください。そもそも、初見では私たち医師でもわかりません。適切な治療をすれば治って再発しないのが乳児湿疹で、治らず原因を探っていくとアレルゲンが特定されるものがアレルギーだと判断していきます。

Q 食物アレルギーとアトピー性皮膚炎は関係あるのですか?

はい、食物アレルギーがアトピー性皮膚炎を悪化させる原因の場合があります。アトピー性皮膚炎の原因が食べ物である確率は年齢によって違って、乳児は50%〜70%もありますが、年齢とともにその関係は薄れていき学童は5%未満と言われています。
ただ、アトピー性皮膚炎の原因が食物アレルギーかどうかは、すぐに反応がでる即時型の症状よりもわかりづらいものです。そのため、日々の食べたものと症状を記した食物日記をつけて診察の際にもっていくと良いでしょう。


妊娠初期の症状は腰痛

食物アレルギーはどうやって治す?

Q 食物アレルギーと診断されたら、その原因食物は完全除去したほうが早く治るのですか?

かつて食物アレルギーは徹底的に原因食物を除去することが推奨されていました。しかしこの十数年で研究が進み、考え方は劇的に変化してきました。現在では、完全除去するよりも、症状がでないレベルでむしろ食べた方が生活の質は改善し、かつ治りやすい印象すらあります。
お子さんやお母さんの精神的にも、成長に必要な栄養を摂るためにも、除去するレベルは最小限のほうがいいですね。
しかし、きちんとした診断をせず、疑わしいものはとりあえず完全除去を指示される医師がいるのも事実です。食物アレルギーの治療で1番大切なのは、正しい診断をしてもらうことです。

Q 病院や医師選びのポイントはありますか?

日本アレルギー学会のホームページで専門医の検索が可能です。また、食物負荷試験(※注)ができる病院も食物アレルギー研究会のホームページで探すことができます。
多少距離が遠かったり時間がかかったりするような病院や医院でも、食物アレルギーだけであれば半年に1度の受診ですむので受診することも検討しましょう。食物アレルギーは遠くても食物負荷試験ができる病院へ行き、アトピー性皮膚炎や喘息は近くの信頼できる病院へ行くなどの対策もよいかもしれませんね。

※食物負荷試験(しょくもつふかしけん)・・・実際に原因食物を食べ症状を観察する検査です。しかしアナフィラキシーの症状がでる危険をともなうので必ず病院で行います。

Q 授乳中は子どもの原因食物をママも除去した方がいいのですか?

母乳には少量ながらもお母さんが食べたものが分泌されます。しかし、その量は微量でお母さんの体調や体質によって異なります。またお子さんがどれくらいの量の原因食物で反応するかも違います。多くの場合、お母さんの除去まで必要なことはありませんが、主治医に相談して診断してもらいましょう。

Q 原因食物を解除するタイミングはどうやって決めるのですか?

血液検査はあくまでも目安です。食べられるようになったかを調べるには食物負荷試験をするしかありません。これは必ず医師の指導のもとで行ってください。そろそろ大丈夫かな?と、自分の判断で食べさせるのは危険なのでやめてくださいね。

Q 解除になった食物でも、再発することはあるのでしょうか?

自然に食べられるようになった場合は、再発することはまずありません。しかし、経口免疫療法(減感作療法)を行って食べられるようになった場合は、原因はわかっていませんが再発するケースもあります。


Q 経口免疫療法(減感作療法)というのは、どのような治療法なのですか?

経口免疫療法(減感作療法)というのは、食物アレルギーの原因となる食物を少しずつ食べ、症状の有無や程度によって食べる量を段階的にふやしていくことでアレルギーを治す試みです。
アレルギーをお持ちのお母さんからすると、夢のような治療法と喜ぶ方もいると思いますが、まだまだ研究段階であり、あまりお勧めはできません。まして、自分の判断で少しずつ食べさせることは、非常に危険ですので絶対に止めてください。

経口免疫療法(減感作療法)は、食物アレルギーに関して専門中の専門の医師のもとで行う必要がありますし、必ずしも良い結果がでるとは限らないのです。きちんとリスクを考えて覚悟の上で行わないと後悔してしまいますよ。

Q 食物アレルギーは治すことができるのですか?

基本的には食物アレルギーは何かをしたり、何かを内服したりして治るものではありません。年齢が上がるにつれて自然と治っていくのを待つしかないのです。薬もアレルギーそのものを治すものではなく、アレルギーによって起きた症状を抑えることしかできません。食物負荷試験などで食べられるものは何か確認して、反応が出てしまう食物を除去しながら見守っていくんですね。
多くの場合は6歳までに自然と治っていきます。逆に、6歳を過ぎると治りにくい傾向があります。

Q 湿疹などの軽い症状しかでないようなら、原因食物を少し食べさせてみても大丈夫でしょうか?

食物アレルギーの症状は、軽い症状から重篤なアナフィラキシーショック症状まで様々現れます。湿疹のように軽い症状であれば大丈夫だと思って食べさせてしまうと、突然強い症状に見舞われたり、その湿疹がなかなか治らずに、お子さんが辛い思いをしたりします。
経口免疫療法(減感作療法)として、専門の医師の指導のもと計画的に食べさせていくのでなければ、たとえ軽い症状であっても少しずつ食べさせていくことは全く勧められません。注意してください。

食物アレルギーは、正しい知識をもった医師に正確な診断をしてもらうことが最も大切です。
必要以上に心配していたずらに除去をしたりせず、除去を必要最低限にした食生活を送りましょう。インターネットなどに溢れている無駄に不安を煽るような情報に惑わされないためにも、お母さんが正しい知識を得ることが大切です。



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